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  企業の社会的責任(CSR)についての考え方
 

神戸大学大学院発刊のワーキングペーパーにてインタビュー記事が掲載されました。

「仁張工作所」のCSR (1)CSR推進の目的 同社では、1996年の仁張正之氏の社長就任に際して、現行の経営理念(後掲)を制定した。これは、企業の存在理由や社会的目的、経営に当たっての基本的考え方、基本的姿勢を示すもの、企業経営を行ううえでもっとも重要なものであり、仁張工作所が「継続して存続し続けるための進むべき方向、考え方、夢の源」と位置づけられている。

神戸大学大学院 「中小企業によるCSR推進の現状と課題 〜さまざまな障害を超えて〜 」第4章より

  1.背景  高まる中小企業のCSRへの期待〜研究の動機と目的
 

 CSRとはCorporate Social Responsibility の略であり、「法令順守に基づいた事業活動により利益を確保するにとどまらず、地球環境の保全や(地域)社会とそのメンバーである人間への貢献とのバランスにも配慮すること等も企業が負うべき責任であり、同時にその内容を事業上の関係者に説明する必要があるとの概念」と定義づけることができます。

 2004年4月に経済産業省がまとめた『企業の社会的責任(CSR)を取り巻く現状について』では、CSRへの関心の高まりの背景として、「社会における企業の存在の定着化」を始めとする8つの要因が挙げられています。中でも、これらの要因のうち、CSRへの関心の高まりの要因として最も重要なポイントは次の3つであると考えます。

 

 まず、温暖化やオゾン層の破壊、廃棄物などに代表される地球環境問題への関心の高まりです。この動きは、1992年にブラジルで開催された国連環境開発会議を機に、大きなうねりとなって世界に広まりました。国際標準化機構は、1996年に環境マネジメントシステムについての規格であるISO14001を制定しました。現在では、この認証を取得する事業所等(サイト)は国内だけで約2万サイトを数え、企業などが環境保全に配慮した活動を行う仕組みとして定着しているといってよいでしょう。一方、政府は、2000年を「循環型社会元年」と位置づけ、同年6月に循環型社会形成推進基本法を公布し、国を挙げてリサイクルや廃棄物の削減に対する取組みを推進しています。また、2005年には、気候変動枠組条約第3回終結国会議(COP3)で採択された京都議定書を発効し、今や地球環境の保全は国民にとっても企業にとっても大きな関心ごととなっています。

 次に、規制の緩和によって、企業の信頼性が従来にも増して厳しく問われるようになってきたことがあげられます。すなわち、政府や自治体の許認可による“お墨付き”がなくなったことによって、企業は自社が信頼に足る企業であることを自ら実証する必要が出てきたのです。さらに、グローバル化やIT化によって、自社を知らない海外の顧客との取引機会が増えたことも、企業にCSRに関する情報開示を迫る要因になっていると考えられます。

 そして最後が、止まるところを知らないかのように続発する企業不祥事です。誰もが知る大手企業や、何代にもわたって古いのれんを守ってきた老舗が思わぬ不祥事でつまずき、顧客や株主、取引先や従業員に多大な迷惑を及ぼしています。こうした事件が繰り返されるたびに、コンプライアンスなど企業経営における非財務リスクに対するステークホルダーの関心は、高まっています。

 

 こうした動きを受けて、CSRに取り組む企業は大企業を中心に増えつつあり、とくに経営の根幹に関わる重点テーマのひとつとして捉えている企業も出てきています。前述の東京商工会議所のアンケート調査でも、大企業の約94%がCSRに関連する取組みを「十分行えている」、あるいは「大体行えている」と回答しており、なかでも「中核に位置づけられるべき重要課題」と認識している企業は約83%に上っているのが分かります。

 その反面、中小企業においては、CSRの普及、定着とも大企業と比べて明らかに低調です。東京商工会議所のアンケート調査によると、中小企業のなかでCSRに関連する取組みを「十分行えている」、あるいは「大体行えている」と答えたのは、全体の約58%という結果でした。

 しかしながら、中小企業は、非一次産業の企業数で国内の99.7%、従業員の79.9%を擁しており、地域の経済界において多くの顧客、従業員、あるいは取引先と関わり、それらステークホルダーとの間の信頼の醸成を通じて企業価値を高め、社会に貢献しています。また、大手上場企業が生産し出荷している製品の中には、取引先の中小企業の生産・製造した素材や部品も多く含まれています。CSRを、一企業の取組みの枠を超えてサプライチェーンまで含んだ企業活動全体の動きと捉えれば、中小企業にとっても重要な課題であるといわざるを得ません。

 現実に、CSR取組みに積極的な大企業の中には、中小を含む取引先に対してグリーン調達やサプライチェーンマネジメントという形で、CSRの理念に沿ったさまざまな取組みへの協力要求が出ています。これらの点を踏まえると、CSRは、大企業のみならず中小企業においても今後積極的に展開されることが望ましいと考えます。むしろ、大企業に比べて経営基盤の脆弱な中小企業にこそ、主体的なCSR活動によってステークホルダーとのリレーションをより強化し、経営体質を強靭なものに改善することが期待されるのではないでしょうか。

  2.仁張工作所が考えるCSR(企業の社会的責任)
 

(1) CSR推進の目的

 当社では、1996年私の社長就任に際して、現行の経営理念(後掲)を制定しました。これは、企業の存在理由や社会的目的、経営に当たっての基本的考え方、基本的姿勢を示すもの、企業経営を行ううえでもっとも重要なものであり、仁張工作所が「継続して存続し続けるための進むべき方向、考え方、夢の源」と位置づけられています。「ポイントは短期的な利益よりも、長期的な利益を重視することに尽きる」と考えます。つまりすべての企業活動について「その活動が長期的な利益を生み、それによって会社が継続して存続し続ける可能性を拡大するか否か」を基準に判断するのです。

 当社が主戦場とする板金加工の市場では、安価な中国製品が増えつつあり、「トップ10%に入らなければ生き残れない」という激戦が繰り広げられています。こうしたなか、当社は理念を実現すべく品質、環境と重点テーマを決めて取り組んできました。まず2000年の3月に品質管理のマネジメントシステムISO9002をコンサルタントに頼ることなく当社のスタッフによって取得しました(3年後のサーベランスの際に、ISO9001:2000に変更)。その成果が従業員の意識や製品に反映されてきたことから、次に環境保全への取組みに着手しています。2003年の6月に、環境省のエコアクション21のパイロット事業者として環境マネジメントシステムを導入し、活動を推進してきました。

 メーカーは、技術を高め、よい製品を短納期に作り、出荷することが責務です。それを追及すると、品質と環境にたどり着きます。つまり、たとえば技能不足によって手直しや作り直しがあると、時間も材料もエネルギーも無駄になってしまいます。品質面の優劣は経営に直結し、環境負荷にも直結するというわけです。こうしたことから、経営と品質と環境は同じベクトルのうえにあり、本業としてそれらに取り組んできたのであり、たまたまそれがCSRの考え方に非常に近かったといえます。

 また、当社のある東大阪市では不況のあおりから、工場を閉鎖してその跡地に住宅が建つケースが近年増加しており、職住近接が進みつつあります。地域環境の保全や地域社会とのコミュニケーションに十分配慮しなくては、事業活動ができなくなることも考えられます。そのため当社では、周辺の清掃、挨拶、地域の学校などの工場見学なども、積極的に行っています。

(2) CSR推進の方法〜本業との連携をどう図ったか

 前述のように、当社のCSRは本業の一貫としてスタートし、強力なトップマネジメントの元で推進してきました。テーマについては、大事なことから、できることから、基本的なことからまずやってみることをベースに、息切れすることなくスパイラル・アップを図ることを重視しています。また、活動計画と推進実務については、改革推進室という部門を新たに設立し、事務局を担っています。

 当社のCSRの重点テーマは品質と環境ですが、それぞれについてISO9001(当初はISO9002)とエコアクション21のマネジメントシステムを導入しており、それらのPDCAサイクルを回すことによって日常の事業活動にビルトインした取組みを推し進めています。そして、双方の社内監査を担当するのは、管理責任者(リーダー)を一人が兼任することによって、品質と環境の両重点テーマを一体化することが可能になっています。

 品質と環境についての全体目標は、部署別、チーム別、個人別の行動計画にまで細分化し、年間目標として全従業員に割り当てます。これらは、半期ごとに進捗状況をチェックし、問題点があれば所属部長と管理責任者が本人と討議することで達成の可能性を高めています。この背景には、「理念を浸透させることは大切だが、忙しい現場の人を動かすには仕組みづくりが最重要。そのために、できる範囲のシステム化を図ることが重要。できるようにすることが、事務局の仕事である」との考えがあります。

 また、従業員の意識向上のために、環境月間の6月に、環境ポスターを募集するなどの活動も行っています。これには、全従業員の58%に相当する47名から応募がありました。

(3) CSR推進上の課題

 仮に今、これからCSRをやれ、と言われたら私でも二の足を踏むと思います。つまり、新しいことを始めようとすれば、カネも人もすべてが障害であり、できない理由になりえます。しかし、どんな障害があるにせよ、品質と環境が会社の存続にとっての重大な問題だと考えれば、障害は克服すべき通常の課題のひとつに過ぎないと、受け止めることができます。この発想に基づき、永続的に存在し続けるための投資として、経営リソースの強化を図るに至りました。

(4) 課題の解決策

 まず手始めに、当社はISO9002をコンサルタントに頼ることなく自社のスタッフによって取得しました。それに引き続き、エコアクション21をパイロット企業として、補助金を利用して導入しているため、経費的な負担は最小限に抑えられています。
しかし、すべてが解決されたわけではありません。従業員に対するCSR意識の浸透度に濃淡が見られること、「情報不足」という障害があることなど、まだまだ課題はたくさん残っています。これらの点も、当社がCSRをさらに推進していくうえでの課題と考えられます。

(5) CSRに取り組んだ成果

 本業の一環としてCSRに取り組んでいる当社では、CSR の取組みは、品質の安定、生産性の向上、環境リスクの低減、地域との良好な関係の維持、従業員満足、顧客満足などを通じて業績の向上につながるものと認識しています。

 そして現実に、品質面、環境面、営業面においてCSR活動に着手する以前に比べて顕著な変化が見られます。まず、品質面では、2000年に180件、2001年に169件であった顧客からの品質クレーム数が漸減し、2005年には93件にまで改善されています。また、品質意識の向上により、2001年に160件であった改善提案が2005年には1,045件に急増しています。次に、環境面では、グリーン調達に対する顧客の要望に応えるために、当社も、関係会社や取引先に対するグリーン調達ガイドラインを作ろうと、従業員が自発的に言い出したことが挙げられます。

 最後に、営業面では、当社が成長を期待しているEコマースによる販売実績が、環境行動レポートをホームページに掲載し始めた2年の間で大きく伸びたことが挙げられます。ホームページでは、主に特注ものなどの新規顧客からの注文が多くあります。これらは、以前は多くても100〜200万円/月に過ぎなかったものが、今では年間1億円に届く勢いです。背景としては、以前からアピールしていた技術面の優秀さに加えて、環境保全を始めとするCSRに対する姿勢が評価されていると考えます。

(6) 経営理念等による経営者のコミットメント

当社の経営理念と、それに対する当社の考え方を示します。

「ここに示す経営理念は、2代目社長が会社を継ぐに当たり、全社員に発表した我が社の経営理念です。

・私達は板金加工を通じて良い商品を社会に提供し、安全で快適な生活空間を創造します。
・私達はお客様の満足を通じて仕事に誇りを持ち、より良い生活を実現し、働きがいのある会社づくりに努力します。
・私達は常に新しい板金加工技術について積極的に学び、自分たちのものとし、共有化することによって、技術レベルの高い信頼される会社をめざします。

経営理念とは、
・その会社の存在理由や社会的な目的は何か。
・経営にあたっての基本的な考え方とは何か。
・企業の基本的な姿勢とは何か。
を示したものです。
『経営理念』の『理念』の意味は、理性によって到達する最高の考え方、根本的な信念ということです。

つまり、仁張工作所がこれからも継続して存続し続ける為の進むべき方向、考え方、夢の源であります。私達は、求人採用の際にも選考段階から経営理念について説明し、理解していただける方の中から仲間を迎えることとしており、常により高いレベルで経営理念を具現化して行きたいと考えます。」

(7) 2005年度環境レポートによる経営者のコミットメント

EA21に基づく 2005年度環境レポートで、次のように私のコメントを記載しています。

「2005年度の環境レポートを発表できてうれしく思います。当社にとってエコアクション21認証取得活動からの環境に対する取組みは、始まったばかりで、一言でいうと『環境に対して意識が芽生えた一年』でした。 設定すべき目標値も、過去のデータがほとんど無いので、皆で相談し、多少「ええかっこ」もして決めたものの、中には見当はずれの数字も出てしまいました。そんな中で、地域と共に頑張らんといけない中小企業こそ環境についても一所懸命取り組まないといけないかなって思えるようになりました。
当社は2004年を環境元年ととらえ、現在の到達点からまた次の取組みを進めていきます。」(2004年3月)

EA21に基づく 2005年度環境レポート

  3.まとめ
 

 仁張工作所におけるCSRの最大の特徴は,経営体質強化を目的とする品質向上と環境改善のための活動としてスタートし,終始一貫してそのポジションが揺らぐことなく,本業の延長として取り組んできた点にあります。そのため,活動のテーマもいたずらに広げることなく,本業に重要な品質と環境に絞っており,限られた経営リソースを重点的に投入することができていると考えます。

 また,「経営理念」と「2005年度環境レポート」に示されたトップコミットメントに見られるように,経営トップの強い思いと積極的な関与が明確に示されていること、さらにそれを形にして従業員が実践しやすい形にして提示するリーダーの手腕がうまくマッチングし,取組みの実効性を高めています。具体的には,品質と環境の目標を個人に細分化し,業務における評価のインデックスとして推進状況をチェックできる仕組みに,ISO9001やエコアクション21といったマネジメントシステムが補完的に機能しあって,従業員個々の活動が全体のPDCAサイクルに織り込まれている点も特筆したいと思います。

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